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将来計画及び運営方針 分子研リポート2001 | 分子科学研究所

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分子科学研究所は,物質創成,光科学および反応動力学を3つの柱とし,分子および分子集合体のもつ新奇な性質 を解き明かす研究活動を行ってきた。創立以来27年が経過し,光科学では廣田榮治名誉教授の学士院賞,分子動力学 では中村宏樹教授の中日文化賞,有機化学分野などの大きな影響力をもち,論文引用の多さで高い評価を受けた諸熊 奎治名誉教授等に代表されるように,本研究所の研究成果が高く評価されて現在に至っている。井口洋夫名誉教授は, 分子エレクトロニクス分野を開拓,分子素子という概念を導入され,分子科学研究所での物質創成研究を通して世界 の物質科学分野での先導者としての役割を果たされている。その結果,同教授は平成13年度に文化勲章を受章された。 平成13年3月末に閣議決定された第2期科学技術基本計画では,研究者の自由な発想に基づく基礎研究の推進ととも に,ライフサイエンス,情報通信,環境分野に加えてナノテクノロジー・材料分野が重点領域として研究開発を推進 することが提言されている。この現状で,分子スケールの科学,つまり分子科学研究の中核である分子科学研究所は, 広義での物質科学研究の推進による21世紀の科学技術の基盤形成に重要な責務を担っている。特に,科学技術の急速 な進展が予想される現況において,国際間での競争が激化し,ますます国際間の格差が広がる危機的状況に対応して, わが国の学術研究機関がアジアを含む学術研究体制の中核として,多国間の共同研究体制の拠点を目指すことが緊急 の課題であり,平成15年度に考慮すべき,最も重要な課題である。

平成14年度から,分子科学研究所がいままで研究を展開してきた B 地区に加え,岡崎国立共同研究機構の3研究所 が E 地区において統合バイオサイエンスセンターを先鞭として新たな研究を展開する。平成14年度の概算要求におい て,本研究所の光科学研究の柱である極端紫外光実験施設の高度化計画が認められ,新しい光科学がこの施設におい て展開されることになる。同じく,概算要求によって分子スケールでの物質科学研究の共同研究の中心となるべき分 子スケールナノサイエンスセンターの組織が認められ,純増3名を含む20名の教官が,E 地区を軸にナノサイエンス の新しい研究拠点を形成する。また,相関領域研究系および錯体化学実験施設が,統合バイオサイエンスセンターお よび分子スケールナノサイエンスセンターと協調しつつ,物質創成の発展を図る計画が進められている。これらに加 え,わが国の IT 重点計画の一環としての高速ネットワークであるスーパー S INE T が,機構共通研究施設である計算科 学研究センター(専用スーパー S INE T )および岡崎国立共同研究機構(汎用スーパー S INE T )に平成14年度後半から 接続されることになった。分子科学研究所が他に際立って特徴とする強力な理論化学研究部門が,計算科学研究セン ターと協力しつつ,スーパー S INE Tを活用した理論化学研究のさらなる発展を試みる基盤が整備された。

このような状況を踏まえて,分子科学研究所の将来計画委員会は平成14年度の主要計画を以下のように項目別に設 定した。

(1)多国間国際共同研究

(2)物質科学

(3)化学反応ダイナミックス

(4)光分子科学

(5)理論研究系と計算科学研究センター

(1)多国間国際共同研究

分子科学研究所は,創設以来多くの国際共同研究を主催するとともに外国人客員教官を始めとする多数の外国人研 究員を受け入れ,国際共同研究事業を積極的に推進し,国際的に開かれた研究所として高い評価を得ている。このよ

5.将来計画及び運営方針

(2)

うな今までの活動の経緯を踏まえ,その問題点を明確にしつつ新世紀にふさわしい国際共同研究拠点としての体制を 構築しなくてはならないと考える。その主要な論点は次の通りである。第一に,国際共同研究の多国籍化がますます 進行しており,二国間のみの共同研究では対応しきれなくなっている。これは,二国間協力を単に地域に拡大して解 決される問題ではなく,国籍を全く問わない形での共同研究体制を構築する必要がある。第二には,分子科学研究所 の様な国際的な研究機関は「世界の分子科学の拠点」として自らの企画と主導権の下に柔軟にそして臨機応変に共同 研究を遂行し得る体制を持たなくてはならない。さもなくば,C OE としての意味をなさないであろう。第三に,新し い世紀におけるアジアの重要性とその一員としての日本の役割を考えたとき,アジアの基礎科学を支援するとともに 共同研究を推進していくことが極めて大事である。しかも,この共同研究は分子研が主導権を持った形で推進できる ことが肝要である。新しい世紀を迎え,アジアにおける基礎科学の高揚をうながすために日本が果たさなくてはなら ない役割と責任の大きさを考え,国際共同研究拠点として,アジアの若手研究者の受け入れと育成(特に博士研究員 の受け入れと育成),各種研究施設(特に電子計算機センター(平成12年度から岡崎国立共同研究機構・計算科学研究 センターとなる)や極端紫外光実験施設)の提供,及び研究者の交流と共同研究の実施を効率良く遂行出来る体制と 予算的裏付けを求める。具体的には,「物質分子科学」,「光分子科学」及び「化学反応ダイナミックス」の分子科学3 大研究分野に関して国際共同研究ネットワークを構築し,経常的にそれぞれの分野で共同研究を2−3年計画で実施 出来るようにするとともに,アジアの若手博士研究者を年間10名程度2年間受け入れる体制を構築いくべきであると 考える。台湾,中国,韓国などにおける研究体制と若手研究者育成の国際化の活発な動きを目の当たりにする今,日 本の果たすべき役割を正しく認識して,この提案が遅滞無く緊急に対応されるべきことが,我が国の基礎学術・科学 技術政策の上からも必要不可欠であり,焦眉の急であると考える。さもなくば,日本の役割と責任を果たさないどこ ろか,日本自身の存在価値そのものを無くすことにもなりかねない。

(2)物質科学

平成14年度の概算要求で分子スケールナノサイエンスセンターの組織が認められ,分子金属素子・分子エレクトロ ニクス部門,ナノ触媒・生命分子素子部門およびナノ光計測部門が2つの流動部門とともに組織化される。

本センターでは,原子・分子サイズでの物質の構造およびその形状の解明と制御,さらには新しい機能を備えたナ ノレベルでの新奇な分子系「分子素子」の開発とその電子物性の解明,またナノサイエンス研究を促進させる光測定 技術などの方法論を開発し,分子スケールナノ構造体の性質を体系化した新しい分野を開拓する。すなわち,分子科 学研究所の持つ分子集合体に対する多岐に渉った研究を集約して,理論的な機能予測,それに基づく物質合成,光計 測を含む時空間的測定手段を開発・応用しつつ,共同研究機関として外部との連携を図りつつ,「分子の個性を制御し た分子スケールナノ物質」の研究を行う。内部での設計,合成,物性測定などの協力を密にし,また,外部のナノサ イエンス・テクノロジー研究グループとの分野を超えた連携の場として,全国の共同研究の拠点であり,支援の場と してのセンター作りが我々に課せられた使命である。このセンターは,多くの部分を E 地区において展開するが,物 質創成という立場からは,分子構造解析装置が,この新しい施設に必須であり,さらには,外部利用を配慮に入れた クリーンルーム,ナノ測定装置などを設置する先端的研究実験棟を設置することが必要である。

(3)化学反応ダイナミックス

化学反応は物質変換,エネルギー変換の基礎であり,正にこの世の有為転変の根本である。物質創生の基本として の化学反応の理論的及び実験的研究が分子科学研究所の永遠の重要な課題であり不変の使命であることに疑いの余地

(3)

はない。実際今まで,新しい理論の開発と先端的な実験研究が分子科学研究所において行われてきており,国の内外 において高い評価を受けている。ノーベル賞を受賞した福井謙一の HOMO-L UMO理論に代表される化学反応の静的な 側面に加え,21世紀にはその基礎の上にたったダイナミックスの研究を推進して行くことが肝要である。化学反応ダ イナミックスの基本メカニズムを理解することは,時間,空間,そして階層的物質構造の次元のそれぞれにおけるダ イナミックスの基本を解明することに繋がる。即ち,言い換えれば,物質科学や光分子科学分野の基礎の理解に繋が り,これら分野との連携・協力が極めて重要な意味をもつものとなる。今後のナノサイエンス研究においても,単な る静的な物性がナノ物質の性質のターゲットではなく,より動的な側面から情報伝達やエネルギー伝達などの新しい 動的物性のナノ構造制御に挑戦することが重要でありそのためにも,化学反応ダイナミックスの研究はなくてはなら ないものとなる。

さらに,化学反応の基本メカニズムを理解すると言うことは,我々の手で反応を思うままに制御し,新しい反応を 設計出来るようになり得る事を意味している。レーザーに代表される様々な外場を用いたり,あるいは触媒や反応場 を上手く設計して化学反応を自在に制御・設計するための基礎的な理論の構築と実験的研究は今世紀の科学の極めて 重要な課題である。

上述したような根源的学術研究は物質分子科学及び光分子科学に跨るものであり,分子構造研究系,電子構造研究 系,極端紫外光科学研究系などの化学反応を研究対象とする研究系とともに分子スケールナノサイエンスセンター,分 子制御レーザー開発研究センター及び極端紫外光実験施設などの実験施設とも密接な関係を保持しつつ,その活性を ますます発展させていかなくてはならない。

(4)光分子科学

分子科学研究所は光科学領域において,極端紫外光実験施設と,分子制御レーザー開発研究センターを中心とした 活発な共同研究行なわれている。平成14年度の概算要求で,極端紫外光実験施設の高度化が実現されることとなり,こ こではナノサイエンスを含む多くの分子科学研究所ならではの放射光を利用した先端的研究が具現化する。このよう な貴重な設備を効率よく共同利用に供するため,運転時間の延長およびテーマ数の拡充が求められている。一方,レー ザーを利用した時間,空間の高度の制御による時空間ナノ計測への挑戦がなされようとしている。その成果を共同研 究に供するためにも,レーザー設備のさらなる充実が求められる。

(5)理論研究系と計算科学研究センター

本研究所は物理と化学にまたがる研究所として,他には見られないほど高度な理論分子科学研究グループを有して いる。そしてその連携の場としての計算科学研究センターは共同利用施設として先進的な研究を行い,国の内外から 常に高い評価を受けている。理論分子科学分野におけるこのような我が国随一のアクティビティーを中核的な基盤と して,他の大学共同利用機関,大学付属研究所と連携して,分子軌道法,分子動力学法,統計力学理論などを駆使し た巨大計算に基づいて,ナノ物質の成り立ちとふるまいを支配する自然原理を明らかにする。そこでは特に,従来の ナノテクノロジーの枠を超えて分子や分子集合体からなる柔らかいナノ物質に注目する。たとえば分子やその集合体 が熱ゆらぎなどにより自ら形態形成を行い,その形態に基づいて特異な機能を発現するプロセスを解明するなど,既 設の計算機では全く不可能な質的に異なる研究を展開する。これらにより,ナノメータ程度の物質系に対する材料設 計指針,機能予測を可能とするようなナノ物質科学,ナノバイオロジー分野の発展に不可欠な分子科学の新たな学術 的基盤を形成する。このような観点から,我が国における物質科学研究の連携の環とスーパー S INE T を活用した巨大 計算機によるナノシミュレータの設置とその組織作りを提案する。

(4)

これまで,極端紫外光実験施設(UV S OR )では以下のような4つの将来計画を策定して実現に向けて努力してきた。

(1)光源,分光器,測定装置の高度化(upgrade)による世界的研究成果の達成

(2)レ−ザ−を併用した実験技術の開発と新しい放射光分子科学の展開

(3)第3世代高輝度軟X線光源(分子研外)を利用した先端的分子科学の遂行

(4)UV S OR 次期計画としての次世代光源の建設と新研究分野の開拓

この4つの将来計画のうち(1)(2)(4)に関連して加速器分野の光源関係の組織の補強(特に教授を置くこと) が必要である。また,全国の放射光利用研究者の10年来の念願である(3)の高輝度軟X線光源計画の実現が大きく 遅れているために,(4)を進める前に(1)で手つかずになっている光源加速器の upgrade の実現の緊急度が増して いる。

このような状況の中で,平成12年前半には,極端紫外光実験施設(UV S OR )の光源加速器を中心とした高度化計画

(2年間∼4年間で段階的に実施する)を平成13年度概算要求の重点事項として提案した。また,平成12年後半には施 設の外部評価を実施し,上記将来計画(1)の緊急度が高いとの指摘を受けた。これらの報告は「分子研リポート2000」に ある。しかし,平成13年度概算要求では高度化計画が認められなかったため,平成13年になって概算要求ばかりに頼 らず競争的研究資金を含めて可能性を探った。幸いにして,このような努力に対して文部科学省の理解を得るところ となり,高度化計画を平成14年単年度の概算要求に変更することで一気に実現することになった。すでに平成14年度 末に高度化設備が導入される予定で準備が始まっている。また,平成14年度から発足する分子スケールナノサイエン スセンターの中に UV S OR 加速器を利用して輝度の高い光源を開発する教授職1名も認められた。以下では平成14年 度に実施する高度化計画の概要と UV SOR 運営委員会(2001.7 .17 , 2002 .1 .31),UV SOR ワークショップ(2001. 11.26-27, 2002.3.5- 6),分子研将来計画委員会(2002.2.19)でその後の展開について議論した結果について まとめておく。なお,第4章「点検評価と課題」に分子科学研究所外国人評議員 A . M. B radshaw 博士による UV S OR 施設の評価レポートを掲載しているので,参照のこと。

5-1-1 光源加速器の高度化の概要

UV S OR は1984年の共同利用開始以来,我が国における主要な放射光施設のひとつとして順調に稼動を続けている。 多数の利用者に安定に放射光を供給する一方で,自由電子レーザー研究など光源加速器技術の開発研究においても目 覚ましい成果を挙げてきた。しかしながら U V S O Rの放射光源としての基本的な性能は建設以来変わっていない。 UV S OR は典型的な第2世代の放射光源であり,最新の第3世代光源に比べると,挿入光源数や放射光輝度といった点 で大きく劣っている。

UV S OR 高度化計画は,

(イ)挿入光源設置可能な直線部の増設

(ロ)低エミッタンス化による放射光高輝度化

(ハ)挿入光源およびビームラインの更新による高性能化

(ニ)加速器各部の更新による高性能化,信頼性向上

を実現することで,UV S OR を第3世代光源(エミッタンスが 10 nm-rad 前後あるいはそれ以下で,挿入光源を中心と するもの)と競争可能な放射光源に転換し,今後10年前後,V UV 軟X線領域における最先端の放射光利用実験が行え る施設として現在の地位を維持・強化していこうとするものである。

5-1 極端紫外光実験施設の将来計画

(5)

(1)新ラティス(上記(イ)(ロ)に対応)

UV S OR 高度化の中心となるのはラティス(電磁石配列)の改造による直線部の増設と低エミッタンス化である。現 在3台の四極電磁石と2台の六極電磁石が設置されている短直線部で 1.5 mのフリースペースを設け,その両側に補助 コイルにより六極磁場も発生できる四極電磁石を2台ずつ配置するようにする。長直線部に関しても同様にしてフリー スペースを現在の 3 m から 4 m まで拡大する。直線部数は,現在の 3 m 直線部4本から,4 m 直線部4本,1.5 m 直 線部4本の合計8本へと倍増される。内2∼3本は入射や高周波加速などに使用されるため,残りが挿入光源用とな る。

新オプティクスのエミッタンスは現在の 160 nm-rad から 27 nm-rad と約 1/6 まで小さくできる。四極電磁石による収 束を強めることに加え,全ての直線部に有限の分散を持たせ,効果的に低エミッタンス化する。

なお,すでに昨年,高度化の事前準備として,電磁石据付精度の精密測量を実施した。また,高速高精度のビーム 位置検出システム(B PM)も導入済みである。

(2)光源性能((ハ)に対応)

低エミッタンス化により放射光輝度は大幅に改善される。既設アンジュレータや偏向電磁石の放射光輝度が概ね一 桁高くなる。磁極間隙は,ビーム寿命に影響を与えることなく,最小で 10 mm まで狭めることができる。さらに,短 周期の真空封止型アンジュレータが導入できるようになるので,これまで UV S OR では発生することの出来なかった 100 eV超の領域でアンジュレータ光(基本波)を発生することも可能となる。近年,レーザー光の短波長化が進んで いるので,レーザーでは当分不可能な,このようなエネルギー領域で UV S OR の特長を出すことができるようになる。

(3)加速器改造((ニ)に対応)

加速器改造は,直線部の電磁石系,真空系の改造が中心となるが,直線部以外では,低エミッタンス化後のビーム 寿命確保のために光源リングの高周波加速空胴の増強を行う。T ouschek 効果によるビーム寿命の短縮は UV S OR のよ うな低エネルギーリングを低エミッタンス化した場合には避けられない問題である。そのため,まず既設の3倍高調 波 R F 空胴を利用しバンチ長を延ばすことで T ouschek 効果を緩和し,次に主 R F 加速空胴に投入できる電力を制限して いる入力カプラー部を改良し加速電圧を上げて R F bucket heightを高くすることで現在と同程度の寿命を確保するよう にする。さらに,入射器も光源リングと同じく製造後20年近くが経過しており,施設の安定な運転のためには入射器 の高性能化,信頼性向上を実現する必要がある。今回特に前段入射器である線形加速器の増強を行い,入射効率や信 頼性の向上に加え,単バンチ入射のための短パルス発生も可能とする。直接単バンチで入射することで入射時間の短 縮,蓄積電流値の向上が実現できる。これは蓄積リング自由電子レーザーなど単バンチを利用する光源開発にとって も重要である。

5-1-2 ビームラインの高度化の概要

平成12年度実施した施設利用ビームラインの外部評価によって,世界的競争力のあるビームラインがある一方,中 には性能的にかなり時代遅れのものがあることの指摘を受けた。その結果を踏まえ,高度化後のビームライン再編の 検討を開始した。基本的にはビームラインの再構築は学問の進展に従って概算要求や競争的資金によって,順次,やっ ていく予定である。

(6)

(1)既設ビームラインのスクラップ&ビルドと高度化

光源の高度化によって現ビームラインそのままでも輝度が向上し,また,分光器の仕様によっては分解能向上も狙 える。しかし,高度化のメリットは挿入光源(4長直線部,4短直線部の内,5カ所程度が挿入光源で使える)に顕 著であり,挿入光源の性能をフルに引き出して初めて世界的な意味での競争力が出てくるので,既設長直線部アンジュ レータの見直しや短直線部用アンジュレータの開発によってUV SOR の挿入光源ビームラインの競争力を増す必要があ る。ただし,現在,すべての放射光取り出し口が既設ビームラインで占められているため,新たにビームラインを建 設するには既設ビームラインを撤去する必要がある。

現在,UV S OR ワークショップ等での検討の結果,方針がある程度固まっているところは以下のとおりである。挿入 光源としては,すでに高度化に対応できる真空封止型短周期アンジュレータ(短直線部用に開発)を 1 台新たに製作 してあり,平成13年度中にとりあえず長直線部の B L 7Aに設置し,性能評価の後に共同利用に供する。さらにこの経 験に立って,高度化計画の中で長直線部用の真空封止型短周期アンジュレータを平成14年度中に長直線部の B L 3A に 設置する。

・分光照射ライン

現在,B L 6B で行われている研究は B L 7A (建設予定のアンジュレータライン)に移行し,分光照射ラインとして 高度化する。

・赤外・遠赤外ライン

放射光を広く集めるため光の取出し口を B L 6A 1 から B L 6B 側へ移設し,高度化する。

・真空紫外,軟X線(低エネルギー)ライン

B L 7B (建設済み)と B L 5A (建設済みの円偏光アンジュレータライン)を高度化する。 B L 6A にアンジュレータラインを建設できるように B L 6 全体の再構築を検討する。

・軟X線(中・低エネルギー)ライン

現在,B L 2B 1 と B L 8B 1 で行われている研究は数年かけて B L 4B (建設済み)と B L 3A (建設予定のアンジュレー タライン)に移行していく。

・軟X線(高エネルギー,二結晶分光器)ライン

現在,B L 7Aで行われている研究は B L 1A (集光ライン)に移行する。

(2)高度化後の成果展開について

高度化が平成14年度で完了し,平成15年度には挿入光源ビームラインの利用が開始される。輝度の高い放射光を利 用することで,これまで UV S OR 施設では不可能であった顕微分光研究,固体表面等の希薄な系の研究,遷移確率の低 い蛍光X線を使った状態分析研究,光学素子の汚れを克服した炭素内殻領域の分光研究などが可能となる。これらの 装置を使えば,例えば,ナノサイエンス研究にも対応できるようになる。以下のような概算要求を考えている。

・3000時間の運転時間の確保

平成10年度より運転経費が 15% カットされ,運転時間も年3000時間から 15% 前後,削減されている。高度化に より施設のビームラインの競争力が格段に強化されるため,運転時間を元に戻して,競争力のある内に集中的に成 果を挙げる必要が出てきた。

(7)

・研究分野の拡大 

20本のビームラインがあるにも関わらず,認められている実験テーマは6研究分野9実験テーマだけである。高 度化によって放射光分子科学に新たな展開が可能になったので,以下のように研究分野を7分野に拡大し,実験 テーマを2つ追加する。

従来の研究分野

・分光実験

・光電子分光実験

・光化学実験

・化学反応素過程

・固体・表面光化学

・光誘起新物質合成実験 新たに追加する研究分野

・顕微分光実験

5-1-3 国内に於ける UV S O R 施設の今後の位置付け

(1)日本放射光学会将来計画検討特別委員会での議論

日本放射光学会では国内の放射光科学とそれを担う光源施設の将来計画に関してグランドプランを策定するために 将来計画検討特別委員会が発足した。主な検討項目は以下の通り。

1 . 既存施設の将来計画

2 . 極紫外・軟X線高輝度光源計画 3 . 地域型放射光施設計画

4 . 放射光利用(国際交流,産業利用,研究環境整備) 5 . 将来の放射光源(X線 F E Lなど)

平成13年4月から平成14年1月までに7回,委員会が開催された。また,2001年8月19日に中間報告として「極紫 外・軟X線高輝度放射光施設計画に関する提言」がまとめられた。これは上記検討項目の内,特に世界的に見て遅れ の著しい極紫外・軟X線高輝度光源計画の検討の緊急度が高いため,他に優先してまとめたものである。この施設は 現在の全国共同利用施設である UV S OR , Photon F actory(PF ), S Pring-8 の3施設に加わる第4の全国共同利用施設と なるもので,東京大学と東北大学が立候補している。まだ,どちらに建設されるかは決まっていないが,この施設の カバーする領域は UV S OR と PF のカバーする領域の間に来るので,UV S OR と PF の位置づけについても以下のように 留意事項が書かれている。

我が国の放射光利用研究者数は増加の一途をたどっており,その大半は S Pring-8 と PF の利用者である。UV S OR の 利用者数も PF の約3割程度の規模で増加している。各施設の統計を合わせてみると,国内全体で硬X線領域の放射光 利用者が割合が非常に高い。そのため,高輝度の必要な実験の場合をのぞいて,関東・東北地方の硬X線利用研究者

(8)

は PF を利用する傾向が強い。一方,極紫外/軟X線領域の利用者は現在,UV S OR ,PF および S Pring-8(軟X線のみ) を利用しているが,新光源完成時には高輝度 V UV ・軟X線を必要とする実験研究者を中心として多く利用者が新光源 施設に移行すると考えられる。そこで,既存の施設をより有効に利用するために,同時に PF では,ビームラインを補 強/再編成して硬X線実験ステーションを増強することが望ましい。また,UV S OR では,光量は必要だが,高輝度性 は必要としない研究が多い極紫外光領域の多様な実験や時間のかかる実験に重点的に対応できるように,光源や実験 ステーションを増強することが望ましい。

(日本放射光学会「極紫外・軟X線高輝度放射光施設計画に関する提言」 2001.8.9より)

(2)UV S O Rの位置づけの変遷と今後

法人化の問題もあって,国内の放射光施設(特に全国共同利用施設)の位置づけを確立しておく必要があり,日本 放射光学会をはじめとして分子研外での議論が進んでいる。以下では U V S O R施設をどう位置づけるかについて, UV S OR 運営委員会,分子研将来計画委員会,UV S OR 利用者懇談会,日本放射光学会将来計画検討特別委員会等で意 見交換している内容をまとめた。

硬X線,軟X線,極紫外域を広くカバーする大型汎用実験施設として高エネルギー物理学研究所放射光実験施設

(Photon F actory)が設立されたのとほぼ同時期に,大学共同利用機関である分子科学研究所に中型放射光施設の極端紫 外光実験施設(U V S OR )が設立された。両施設とも全国共同利用施設であるが,その設立の経緯や目的は異なる。 UV S OR 施設は,東京大学物性研究所軌道放射物性研究施設が物性研究に重点を置いたのに対して,分子科学研究所内 外の関係者の要望に基づいて放射光利用が遅れていた化学研究のために建設されたもので,分子との相互作用が最も 大きな極紫外域に重点が置かれた。そのため,必然的に施設の規模は中型となった。その後,国内では規模の大きな ものとして Photon F actory と UV S OR の2施設しかない期間が10年以上続き,UV S OR は分子科学のみならず汎用的に

(特に西日本の研究者を中心に)極紫外域の放射光科学をカバーする施設としても整備されてきた。また,分子研の流 動性の高さによって人材の供給源としても大いに貢献してきた。このような放射光科学の進歩とともに最近,6,7年 の間に UV S OR より西に,全国共同利用の大型汎用実験施設の S Pring-8 の他,立命館大学,広島大学,姫路工業大学に 学内施設が設置され,また,佐賀県のように地方自治体が建設する施設もでてきた。さらに,平成14年度からは広島 大学放射光科学研究センター(HiS OR )も全国共同利用施設として位置付けられることとなり,固体物理学を中心とす る物質科学研究を強化・発展させるところとなった。放射光科学の研究がいろいろな施設で可能になっている現在,全 国共同利用の中小型施設は研究分野を汎用的に広くカバーすることよりもその施設が所属している組織の特徴を最も 生かせる分野に重点を置いた施設として整備すべきであろう。すなわち,中小型施設が特定分野の C OE となっている 大学共同利用機関に置かれる場合はその分野の学術研究のための研究者養成の先端設備として位置づけられ,大学に 設置される場合は学部・大学院教育や研究者養成の設備として位置づけられる。また,硬X線利用実験に比較して,中 小型施設がカバーできる極紫外線∼軟X線の利用実験は数倍時間がかかり,測定装置も目的に応じて大きく異なるた め,汎用化とは相容れない部分が多い。このように今後は汎用型の大型施設と利用分野に特徴を持たせた中小型施設 が相補的に放射光科学を推進していくことが望ましい。

(9)

分子科学研究所は,設立以来,分子素子や分子エレクトロニクスの基礎研究を特別研究の主題に取り上げるなど,井 口洋夫教授を中心に有機半導体・有機超伝導体の研究において多くの成果をあげてきた。近年,化学と物理の分野で は,分子を特有の引力を利用して集合化させたり,分子ビームエピタキシャル法やマニュピレーションによる人工的 積層法によって機能性の高い分子スケール構造体表面を作成したり,分子の機能を活かした分子スケールエレクトロ ニクスを実現しようという動きが世界的に高まっている。また,物質の機能や物性は,分子がナノメーター次元の大 きさの集団になって初めて発現することが多いことが明らかになっている。即ち,分子科学がこれからの5年あるい は10年の間に解明しようとしている重要なテーマが,ナノスケールの分子構造体の問題であると言える。過去の10年 間にも,研究所のメンバーによって世界的な研究が発表され,所内の多くのグループがナノサイエンス研究へその軸 足を移行させてきた。

このような学問の急速な進展状況に対応するため,分子科学研究所でも積極的に大がかりなインフラ整備を行う必 要性が高まり,最も効果的に研究を発展させるには,「分子スケールナノサイエンスセンター」を設置して適切な人材 をここに集め,集中的に研究を推進させることが不可欠であるとの結論に至った。欧米に於いては,既にこのような 研究センターが次々と設立されつつあり,今後熾烈な競争が展開されるであろう。世界の最先端を行く研究を継続し, 更に大きな研究成果を期待するためには,全国の共同利用研究機関としての分子科学研究所が積極的に人材と設備を 集中化させ,研究センターを設立し,周辺の研究者を巻き込んだ大きな研究体制を作り上げることが急務である。こ のセンターの実現によって,分子科学研究所は分子を扱う我が国の中心的研究所として,ナノサイエンス推進の中核 としての真の責務を果たすことができ,更に多くの優秀な人材を育てることができるであろうと期待される。

平成13年4月24日の将来計画委員会で,分子スケールナノサイエンスセンターを設置し研究系と研究センターの枠 を越えた新しい共同研究の場を E 地区を中心として設置することが認められ,5月21日の運営協議員会議の議を得て, 文部科学省との概算要求の交渉が開始され,年末の財務省原案に盛り込まれた。平成14年4月1日から発足予定のこ の全く新しいセンターは,教授6,助教授8,助手6を正式な構成員として擁し,更に8名の助手が加わる予定であ るし,技官の方も加えると,総勢30名以上の大所帯となる。特に,このうち8名は全国の国立大学からの流動教官に よって構成される。

センターは3つの大部門と2つの流動部門から構成される。分子科学研究所に大部門が導入されるのは初めてであ るが,大部門における教授・助教授の数は3名以上であり研究計画に応じて流動的な構成が可能となる。現在,計画 されているのは,「分子金属素子・分子エレクトロニクス研究大部門」「ナノ触媒・生命分子素子研究大部門」「ナノ光 計測大部門」であるが,前の2つは名前が長すぎるので,略称を考えなければならないだろう。何をやろうとしてい るかが,判るような名称になっている。いずれの大部門も1−2名の教授と2名の助教授が構成員となるが,3名の 新規教授ポストが認められ,9名は,分子物質開発研究センター,電子構造研究系,分子集団研究系,などからの振 り替えとなる。これに,「分子クラスター研究部門」と「界面分子科学研究部門」の2流動部門8名が加わる。これら の流動部門は,ナノサイエンスに適した看板をもつため研究内容の整合性が高い。全国の国立大学の分子科学あるい はその周辺領域の研究者の中で,積極的にこの分子スケールナノサイエンスセンターの中で研究を展開しようとする グループあるいは個人に対して,2年の間,場所と研究費を提供し,センターの中での活発な研究交流を通してより 大きな成果を出せるような「場」を提供することになる。

平成14年度には,センターの建物も認められることとなった。もともとの計画では,分子物質開発研究センターと して移転する予定の建物として計画されたが,新センターの発足ということでその建設が予想より早まった形である。

5-2 分子スケールナノサイエンスセンターの新設

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現在,E 地区に統合バイオサイエンスセンター棟および各種の研究支援棟が建設中あるいは計画中であるが,「分子ス ケールナノサイエンスセンター棟」はこの北東に6階建てで建設される予定である。しかしながら,建設計画は新規 の教授3名の増加と流動2部門の参加を見込んでいないため,新たな建物を近くに建設する必要がある。これは,他 の研究所と合同の建物として電子顕微鏡やS T Mなど特別に振動を嫌う装置群専用の部屋を用意したものにしなければ ならないであろう。

ナノサイエンスは分子科学にとって辿るべき自然の道であると言えるが,既に,我々はポストナノサイエンスの時 代に入っているといっても過言ではない。この道を更に先導して行くために着実な成果を重ねてゆくと同時に新たな 扉を目指して進まなければならないであろう。

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5-3-1 現在の計算機システムと運用

2002年2月現在の計算機システムの概要を下図に示す。図の左側は2000年3月に導入されたスーパーコンピュータ システムであり,来年度に更新が予定されている汎用高速演算システムが右側に示されている。

スーパーコンピュータシステムは,富士通製 V PP5000 と S GI 製 Origin から構成される。V PP5000 は 1 C PU 当たり の最高演算性能が 9.6 Gflops のベクトル演算装置30台から構成され,各 C PU に 8 ∼ 16 GB の主記憶装置を持つベクト ル並列計算機である。一方,S GI Origin は 1 C PU 当たりの最高演算性能が 0.6 ∼ 0.8 Gflops のスカラ演算装置 320 C PU から構成され,C PU 当たり 1 GB の主記憶をそれぞれの C PU から共有メモリとしてアクセスが可能な分散共有方式の 超並列計算機である。V PP5000 では高速なベクトル演算能力を活かした大型ジョブの逐次演算処理はもちろん,例え ば8台以上のベクトル演算装置を使った大規模なベクトル並列演算が可能となる。Ori gi n2800/3800 は Non U ni form Memory A ccess(NUMA )方式と呼ばれる論理的な共有メモリ機構を有する。NUMA は主記憶装置が各 C PU に分散し て配置されているため C PU から主記憶へのアクセス速度が非等価ではあるが,利用者プログラムから大容量のメモリ を容易に利用することが出来,大規模な並列ジョブの実行が可能となる。1998年度に導入された NE C S X -5 は 1 C PU 当たり 8 Gflops の最高演算能力を持つ共有メモリ型ベクトル計算機であり,S P2 は 48 C PU から成る分散メモリ型スカ ラ並列計算機である。現在,更新予定の汎用高速演算システムは,ベクトル演算に適したプログラムを高速に処理す ることが出来る“ 主システム” と,中大規模なスカラ並列演算処理が可能な“ 副システム” から構成される点は,既 存の汎用システムと同様であるが,大幅な性能向上が期待されている。今後もこれらの計算機の特徴を活かしつつ,利 用者ジョブの効率的な実行環境を構築することがこれからのセンターの課題である。

Fujitsu VPP5000 30PE 256GB Peak 285Gflops 4TB Disk

SGI Origin3800 256CPU 256GB Peak 153Gflops 4TB Disk

Front-endo NEC TX7/K370

CISCO Catalist 5500

File Server Compaq AlphaSever4100

6node 96G B Hitachi SR8000F1 Peak 72Gflops IBM SP2 48node 8GB Peak 4.4Gflops NEC SX-5 4CPU 32GB

Peak 32Gflops

2002年2月現在

5-3 計算科学研究センターの将来構想

図1 計算機システムの概要

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本計算科学研究センターの前身である「分子研電算センター」はこれまで全国700人におよぶ分子科学者に対して文 字どおり「共同利用施設」としてサービスを提供してきた実績をもっている。これは,他の研究機関の「電算センター」 がその利用者の大部分を事実上その機関内に閉じていることを思うとき,「分子研電算センター」が誇るべき偉大な実 績であり,今後も「計算科学研究センター」が継承すべき特色である。しかし,一方,ワークステーションや高性能 のパーソナルコンピュータの普及に伴って,これまで「計算機センター」が果たしてきた役割の一部が変更を迫られ ていることも確かである。これまで計算機センターを利用して行われていた計算のかなりの部分がワークステーショ ンやパソコンで簡便に行えるようになり,「煩わしい手続きをして大型センターを利用するまでもない」と考えるユー ザーも増えている。他方,国際的には米国を中心に超並列マシンの性能を極限まで使って初めて可能になるような計 算が報告されつつあり,このままでは我が国の理論化学が国際的に遅れをとってしまうという危機感も生まれている。 すなわち,一方では「できるだけ多くの研究者へのサービスの提供を維持」しながら,他方では「世界のピークを目 指すような大規模計算を可能にする」という「二兎を追う」ことを要求されている。このような要請に応えるため一 昨年,計算科学研究センター運営委員会では計算資源の利用枠を「一般利用」と「特別利用」に2本化することが提 案され,昨年度から実運用と審査基準の準備を進めてきた。「一般利用」はこれまでとほぼ同様の計算機利用形態であ り,同様の手続きで申請を行う。他方,「特別利用」は毎年少数の大規模計算プロジェクトに計算資源の一部を供する ものであり,特別の申請手続きと審査を経て許可されるものである。平成14年度の例としては,S GI Origin 計算資源 の約 1/4 に相当するリソースを1つの研究プロジェクトに割り当てられる特別申請が許可された。現在 V PP5000 の一 部の C PU 資源も特別申請の対象と出来る運用準備を進めており,今後ますますこの様な質の高い大規模計算プロジェ クトに利用され研究成果を上げることが期待される。

5-3-2 計算科学研究センターを巡る状況

「計算科学研究センター」(以下,「センター」と略)が発足(機構化)して2年が経過しようとしている。昨年度の

「分子研リポート」において,我々は「センター」の将来構想に関して二つの点を明確にした。ひとつは700名近い分 子科学研究者の共同利用施設として旧「分子研電算センター」が果たしてきた役割は全く変わっていないこと。他の ひとつは計算科学分野における生物関連の計算や情報処理の重要性が増大しており,今後,この傾向は益々強くなる ことが予想されることである。(このことが「電算センター機構化」の主な動機であったことは言うまでも無い。)そ して,これら二つのファクターを満たすために,今後の「センター」の構想を「長期」と「短期」の二つに区別し,長 期的には生物系2研究所との協力でいわゆる「生物情報」を含む生物関連の情報処理分野の充実を視野に入れながら, 短期的には「分子科学」と「生物科学」の「境界領域」の計算科学を発展させることを提案した。この長期的構想に 関しては,昨年度,基生研に「情報生物学研究センター」が発足し,そこに「生物情報」の専門家が招聘されること が予想されるため,その第一歩を踏み出したと言えよう。今後,「情報生物学研究センター」との連繋により,この分 野のマシンやスタッフの充実を図る必要がある。一方,短期的構想については,その第一歩として「分子科学と生物 科学の接点」と題するワークショップを開催し,分子,生物両科学の境界領域で働く研究者の交流を進めた。

「計算科学研究センター」を巡る内外の状況に,昨年度,いくつかの新たなファクターが加わった。そのひとつは分 子研を含む物質科学系5研究所(分子研,東北大金研,東大物性研,京大化研,高エネ機構・物構研)が共同提案し ていた学術創成研究が認められ,この秋にはスーパー S INE T を介して分子研・金研・物性研計算センター間のグリッ ド計算が可能となることである。もうひとつのファクターはナノテクノロジーに関わる国の施策が大きく進展し,分 子研にもこの4月から「分子スケールナノサイエンスセンタ−」が発足することである。

(13)

「センター」ではこれらの発展をふまえて,上記5研究所が連携した「ナノサイエンス」を主題とする新しい「計算 科学」プロジェクトを国に提案する方向で検討を開始した。現在,いわゆる「ナノテクノロジー」という言葉から想 像されるのは,L S I 加工技術や記憶媒体の高密度化など計算機製造にまつわる工学研究である。また,化学における

「ナノテクノロジー」も「ナノチュ−ブ」や「ナノワイヤー」など主としてその固体電子物性に着目した分野であり, 実際,これらのナノ物質が示す新しい物性や機能は電子工学などの応用面で大きな期待がもたれている。これらのい わば「剛いナノ物質」の物性や機能を理論的に解明する計算科学も本提案のひとつの主題であり,主として,東大物 性研と東北大金属研が分担することになろう。一方,分子やその集合体の中には蛋白質や超分子あるいはミセルなど ナノスケ−ルである決まった形態をとったときに初めて機能を発揮する一連の物質が知られており,これらに関して は主として「センター」と分子研理論グループがこの問題を担当する。これらの物質は,通常,溶液中に存在し,あ る平均的な構造(形態)のまわりで統計的に「揺らぐ」ことを特徴としており,この「構造・形態の揺らぎ」が機能 と密接に関係している。われわれはこの意味でこれらの物質を「柔らかいナノ物質」と名づける。「柔らかいナノ物質」 の代表格は蛋白質と細胞膜(リン脂質2重膜)であり,その意味で,本プロジェクトは昨年度「将来構想」で提案し た短期構想である「分子科学と生物科学の境界領域」の具体化という側面ももっている。

以下,「センター」を中心にした「計算ナノサイエンス」プロジェクトの主旨を述べる。

5-3-3 計算ナノサイエンスの提案

生体内における化学反応は「酵素」というナノサイズの分子を触媒として起きており,酵素機能が発現するために は蛋白質が「自己組織化(フォールデイング)」して特異な構造をとらなければならない。金属が「触媒」としての機 能(電子物性)を示すためには金属原子が溶液中で集合してあるサイズになる必要がある。また,界面活性剤などの 両親媒性分子が化学反応の反応場として有効であるためにはそれらが集まってミセルやベシクルなどのナノスケール の分子集合体を形成しなければならない。これらの例に見られるように,自然界にはナノスケ−ルで初めて機能が発 現する現象が数多くあり,これらの集合体ができるためには,まず,バラバラの分子や原子がエントロピーの障壁を 越えて集まる必要がある。しかも,原子や分子がただ集まれば良いのではなく,例えば,「化学反応」という「機能」 が発現するためには,「ナノ集合体」の化学的性質が原子レベルで制御されていなければならない。ナノ集合体を特徴 づけるさらに重要な性質はそれら全部が同じサイズではなく,ある平均値の周りに分布していることである。自然界 の化学過程はこのナノ集合体の「形態安定性」と「揺らぎ」を巧みに使ってコントロールされているのである。そし て,ナノ粒子の形態安定性,揺らぎ,および機能は,ナノ粒子が置かれている溶媒環境によって支配されている。し たがって,もし,われわれがこの自然界の化学過程に学びその法則を理解すれば,それが医療や生産など人間社会に 有用な科学・技術の基礎と成り得ることは理解に難く無い。

本プロジェクトの第一目的は計算化学・物理と情報技術(Ionformation T echnology)の手法を駆使して,溶液中に起 きるナノ集合体の自己組織化,形態変化,揺らぎ,機能発現の仕組みを支配している自然原理を明らかにし,その上 でこれに基づいて形態,機能を予測するなど,ナノスケールの「柔構造」を特徴とする新規物質創製に有用な理論的 方法論を構築することにある。本プロジェクトの意義は単に上に述べた「実用的」な目的の達成に止まらず,新しい 基礎学問分野の確立という大問題への挑戦という側面をもっている。それはこの問題がこれまでの伝統的な物理・化 学の理論的方法論の枠組みを大きくはみ出した研究対象だからである。

これまでの伝統的な方法論は,例えば,形の決まった1個の分子の電子状態や原子や分子が格子状に綺麗にならん だ結晶などいわば「硬い物質」に対しては極めて有効であった。また,多体系でも通常の水のように均一な液体系で

(14)

は分子シミュレーションや統計力学が定量的あるいは半定量的なレベルで現象を記述できる程度に確立していると言っ てよい。また,いわゆる「自己組織化」という問題についてもこれまで理論的研究が行われなかったわけではない。例 えば,ミセル形成のシミュレーションは界面活性剤分子の疎水基同士がお互いに「引き合う」ということを考慮した 直感的(経験的)なモデルのレベルでは多数のシミュレーションが行われている。しかしながら,これらの方法は上 に述べた実際の化学・物理プロセス(溶液中ナノ集合体の自己組織化,形態変化,揺らぎ,機能発現)のある側面を 全体から機械的に切り出しすることを前提に構築されたものであり,その有機的連関を無視したことに起因する様々 な問題を内包している。すなわち,「群盲,象をなでる」ことによる自然描像の誤った記述や実験の「後追い説明」に 堕する危険性を免れ得ないのである。例えば,最後に述べたミセル形成のシミュレーションの例では,ミセル分子の

「疎水基同士が,何故,引き合うのか」という基本的な疑問が説明されていない。これは界面活性剤分子が存在する「水」 という溶媒環境を極端に単純化したためである。このようなモデル化では相互作用の本質が正しく捉えられていない ため,溶液の組成や温度など環境の変化に対応できず,それらが変わる度に経験的な相互作用パラメタを準備しなけ ればならない。すなわち,実験結果に「理屈」をつける理論ではあり得ても,実験を「予測」する理論とは成り得な いのである。ナノスケ−ルの理論科学で,何故,このような問題が生じるのか? それは「ナノ」がまさにミクロと マクロの中間にあり,量子力学や力学で全部を解くのには大きすぎ,一方,統計力学や流体力学などの巨視系に対す る方法論の対象としては小さすぎて「揺らぎ」や「不均一性」が本質的な位置を占めるからである。

このような問題を解決するためにはこれまでの伝統的な方法論だけに固執するのではなく,それらを融合した新し い「方法論」の確立が必要であろう。本プロジェクトは理論化学・物理における3つの流れ(統計力学,分子シミュ レーション,量子化学)を「計算科学」というプラットフォームに統一して,溶液内ナノ現象を解明する新しい理論 化学の構築を目指すものである。

(15)

5-4-1 装置開発室の過去と現状

装置開発室は分子科学の新展開に必要な新しい装置を開発すると同時に,日常の実験に必要な部品類を迅速に製作 するという二つの役割をもっている。研究所創設当時は前者に対する要請が多く様々な大型装置を製作してきた。ま た極端紫外光施設が発足した当時も分光器や大型真空容器などの製作を手がけてきた。しかし,超高真空仕様の真空 槽や1990年以前は市販されていなかった種々の物性測定装置など,多くの装置を専門の製造業者がユーザーの注文に 応じて製作する時代が来るにつれ,研究者側は納期の早い製造業者に依頼するようになり,装置開発室には後者の迅 速性を求める部品的な依頼が多くなった。このような状況の中で,技官の製作意欲の向上を目指して平成3年度より IMS マシン制度が導入され,また名古屋大学など他研究機関との技官の人事交流がなされた。IMS マシンは特許に結 びつくような新規性のある装置のアイディアを公募し,それを具体化してゆく事を装置開発室が請け負った。それに 伴い,IMS マシンの専任スタッフをおいた。しかし,10年の歳月が流れる中で装置開発室の人的な構成が変化して,ア イディアを具体化する作業に時間を要するようになってきた。そのため,毎年積み残しの装置を抱えることになり,出 来上がった頃には発案者は転出しているという事態も少なくないという状況になった。また,IMS マシンに応募され る装置も新規性に乏しく,単に経費目的だけの提案も少なくない状況になった。「装置は作るだけでは無意味で,実験 に供せられて初めて意味をもつ。」この簡単な原則が装置開発室で失われがちであった。これは結局研究者との一体感 の欠如であり,アイディアを出した研究者にも責任のある問題である。

5-4-2 調査

このような状況の中で平成13年5月に西 信之・藥師久彌両教授により「独立行政法人化後の装置開発室のあり方に 対する調査」を所内グループリーダーと装置開発室技官に対して行った。これは独立行政法人化後に予想される厳し い評価に耐えられる体質をつけるために装置開発室の意識を改革すると同時に研究者の新装置開発に対する意欲を喚 起する事を目的としたいわば所内での点検評価に相当する。実際には調査項目が装置開発室の独立採算制さえも求め るような非常に厳しい項目を含んでいたために,装置開発室に与えたショックはかなり大きく反発もあった。調査に 対して様々な意見が出た。グループリーダーの意見としては「装置開発室を縮小して部品類の迅速な製作のみに専念 したほうが良い」という極端な意見もあったが,大勢は「新規性に富む装置の製作は優れた分子科学研究に不可欠な ので,開発的な役割も重視すべきである」という意見であった。技官側も開発的な仕事を期待している。この調査で はっきりしてきたことは研究者と技官の意思の疎通をよくし,一体感を持たせることの重要性であった。これは言う までもなく新しい装置の開発に欠かせない事であるが,同時に日常業務を迅速に処理する上でも重要であり,教官,技 官の両方にこの一体感を期待したい。

5-4-3 現在の取り組みと将来計画

上の調査で明らかになった「新規な装置の開発」と「部品類の迅速な製作」の両方をバランスよく処理するという 装置開発室に課せられた課題を達成するために下記のような方策を講じつつあるが,早急に達成する必要がある。

(1)装置開発

従来の IMS マシン制度を廃止し,これに替わるものとして「特別装置」の依頼を受け付け,今年度は500万円の予 算措置を講じた。今や IMS マシン制度の欠点となったアイディアだけの丸投げをやめ,依頼した装置の実現には依頼

5-4 装置開発室の将来計画

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した教官が責任をもって対応し,装置開発室と一体となって製作にあたる事を条件とした。また製作期間を6ヶ月以 内とし,一つの装置が完成するまでは次の公募は行わないことにした。平成13年度の特別装置は平成13年6月25日か ら7月23日まで,約一ヶ月間の公募期間を設け,薬師久弥教授と西 信之教授が審査にあたった。その結果,分子集団 動力学部門多田博一助教授の「ツインプローブ走査型顕微鏡」が採択された。今回はこの制度を設けてから実施まで に十分な時間がなかったために上の2人で審査を行ったが,次回からは各研究系から選ばれた審査委員会の下で審査 を行うことが必要である。

(2)製作日数の短縮化

装置開発室の依頼業務は機械工作が全体の約7−8割を占めている。このような背景もあって先の調査で特に機械 工作グループに対して多くの意見が寄せられた。特に部品類の製作日数の短縮が強く求められていたため,平成13年 より高松宣輝氏を新たに技術推進員として迎えた。さらに短期間で処理するためには,簡単な部品の製図を C A D シス テムで書ける技術推進員の雇用が必要である。この増員により,技官は長期の製作日数を要する業務に専念できるた め,設計にかかるまでの待ち時間を減らすことができる。平成14年1月下旬現在で,一ヶ月以上の製作日数を要する 物品が特別装置を含めて20件ある。機械工作の技官は一人当たり5件の長期依頼物件を担当していることになる。現 在,極端紫外光実験施設に一人を出向させているが,できるだけ早い時期に5人体制にして長期物件の製作時間を一 日でも早く短縮することが望まれる。以下が早い時期に求められる装置開発室の人員構成である。

機械工作グループ:技官5,技術推進員4(工作3,製図1) 電気回路グループ:技官3

ガラス製作:技官1 事務補佐員:1

(3)公開性

先の調査の結果を受けて装置開発室のホームページの中に機械工作グループのページを新たに設け,依頼物品の受 付け状況や進捗状況が分かるようにした。また,業務日誌も公開することにした。この他,機械設計に役立つ「基本 的な資料」や「装置開発室ではどのような機械工作ができるかをアピールするための資料」を掲載する準備をしてい るが,これを平成13年度内に完成させる必要がある。このような取り組みは機械工作部だけでなく,電気回路部,ガ ラス製作部でも求められる。各グループをまとめたホームページを一日も早く完成することが求められる。

(4)組織の再編

現在の装置開発室は機械工作部,電気回路部,ガラス製作部がそれぞれ独立に活動を行っているため,全体を統括 する役割の技官がいない。そのため上のホームページ作りにも現れているようになかなか足並みが揃わない。装置開 発室全体を統括する役割の技官を置くことが必要である。

(5)今後の基盤技術

装置開発室は限られた人員で活動しているので,分子科学の全ての分野で最高の技術をもつことは不可能である。そ の時代の研究系の要請に応じて基盤とする技術を特化する必要がある。現在装置開発室のもつ基盤技術として超高真 空技術があるが,これは,極端紫外光施設が設立されて以来,多くの超高真空容器を製作してきた経緯があるからで

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ある。現在,この分野はかなり成熟しており,専門の製造業者に依頼したほうが速くて確実なものが入手できる状況 になっている。分子科学研究所は平成14年度より分子スケールナノサイエンスセンターを新設する。この分野は技術 的にも未成熟の状態であるので,装置開発室の重点技術をナノサイエンスで必要とされる微細加工に関連する技術へ も向ける必要がある。

(6)工作機械類の更新

新しい基盤技術の養成には新しい装置の導入が必要である。平成13年度は所長のはからいでワイヤー放電加工機を 更新することができた。この装置により,切削溝の幅を従来の 270 µm から 40 µm へと大幅に縮小することができる。

また,将来的には製作したものの形状を精密に測定するための3次元形状測定機とレーザー測長器(10 nmまでの測長 可)が必要である。また,化学分析用の S E M は形状や表面粗さの観察を行う上で便利な装置であるので,老朽化した S E M を分子スケールナノサイエンスセンターで更新する事を希望する。この他,老朽化した NC 旋盤の更新が必要で ある。この他,製図作業の迅速化のために,年次計画で一台づつ更新している C A D 用のコンピューターの更新を急ぐ 必要がある。電気回路グループでは平成12年度にプリント基板製作装置の更新を行った。現在,高速オシロスコープ とロジックアナライザーが老朽化しており,早急に更新する必要がある。

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